東海道徒歩の旅

東海道徒歩の旅 #9 後ずさりのカーネルおじさん

さて、これを書いている今日は2020年4月27日、コロナの自宅待機の真っ最中です。

同じく巣籠り中の皆さんのちょっとでも暇つぶしになったら嬉しいなあ。

皆さん頑張りましょう。

我が東海道徒歩の旅も8回目となり、今回の計画は藤沢から平塚まで。

宿場間の距離は13kmほどあって、これまで歩いた宿場間の距離では一番長い。

今までのように昼頃出発地点を出たのでは、夕方までに平塚につかないぞ、と8時ころから出発だ出発だと騒いでいたのに、結局家を出たのは9時過ぎで、それでも小田急線に乗って10時半には前回の終着地点、小田急線の藤沢本町駅に着いたのであった。

息子のゴンちゃんは、朝、

「今日は小田急線に乗るよ」

と教えると、何やら突然張り切って、ガサゴソ着替えを始めたと思ったら、先日彼の祖父が新宿駅で買ってきた、小田急線の駅員さんの制服姿になれるコスプレシャツに着替え、なぜか頭には20年ほど前に我が祖父が、つまり彼の曽祖父がヴェネツィアで買ってきた水兵だか船乗りだかの帽子をかぶってやる気十分なのである。

そんなゴンちゃんと、妻のお多津、娘のベー子と藤沢におりたったのであった。

時にこの日は2013年6月2日、我が36歳の誕生日、息子のゴンは5歳、ベー子は2歳でありました。

2歳のベー子はまだ大人と一緒に歩くというわけにはいかないので、今回もベビーカーをゴロゴロ押しての旅だ。

藤沢本町をでてしばらくは平たんな道だったのだけど、少しすると緩やかな上り坂になり、その坂の途中のコンクリートに固められた坂ののり面に何か祠のようなものがある。近づいてみると「おしゃれ地蔵」という説明版が立っていて、石に掘られた2人の石像が納まっていた。

新しい花もあげられていて、近所の人から慕われているようだ。

説明には「女性の願いなら何でもかなえてくださり、満願のあかつきには、おしろいを縫ってお礼をする」と書いてある。

たしかに、お地蔵さんの顔は白く塗られていた。

花もあげられているくらいだから、つい最近も誰かのお願いを叶えたばかりなのかもしれない。

ふと横を見ると妻のお多津が、やけに真剣に手を合わせているので、何をお願いしたの? と聞いたら、ニヤリと笑って

「秘密」

とおっしゃった。

なんか怖い。

さて、それからもう少し坂道を登っていくと、ちょっと広い公園があって、何せ子供たちは「東海道53公園」を目指しているのかいないのか、とにかく公園を見つけたら走り回ることにしているようで、この日も公園へまっしぐらなのであった。

しかもこの公園、普通の公園とはちょっと違った、大人が健康のための運動に使うらしいちょっと変わった器具がいろいろ設置されていて、樽のようなものがぐるぐる回る上をまるでハムスターの水車のように人間が走り回る器具などは、大人の俺でさえ初めて見るもので、子供はもうまっしぐらなのであった。

俄然子供らは元気になり、そのうち二人とも「暑い暑い」と上半身裸で走り回り、元気はいいけれども、今日も進まねえなあ、と途方に暮れながらそれを眺める俺なのであった。

そのうち、子供たちも満足したようで、

「さあ、そろそろ出発して、ご飯食べるとこでも探そう」

なんて言いながら、また出発したのであった。

すると、この長い緩やかな坂を上り切った当たりにケンタッキーフライドチキンのお店があった。

新装オープンしたばかりらしく、オープンの旗がパタパタ揺れている。

それに引き込まれるかのように、ぞろぞろっと入店した我々であった。

それぞれにチキンサンドなど頼んで、それを受け取って、空いていたテーブル席に着く。

すると、ベー子の背後の店の隅の方から、怪しく近づいてくる人影がある。

それはなんと、カーネルおじさんであった。

正確にはカーネルおじさんの着ぐるみであった。

真っ白な服に真っ白な髪の毛のカーネルおじさんはメガネの向こうの目をにっこりさせ、両手をピースにしながら、じわじわと静かに近づいてくる。

カーネルおじさん、声は出ないのである。

気づいた俺が子供たちに

「あ! カーネルおじさんが来てくれたよ」

というのをこれ幸いと、カーネルおじさんは、トトトト、と我々のテーブルに近づいてきた。

するとあろうことか、ベー子が一気に顔を引きつらせ、

「ぎゃー!!!」

と泣き叫んだ。アンパンマンならまだしも、まだカーネルおじさんは知らなかったのだ。

にっこり迎えてもらえると思って近づいてきたカーネルおじさんは、泣き叫ぶ2歳児に圧倒され、目はにっこりと笑い、手もピースサインのまま、若干腰を引きつつ後ずさりしていくのであった。

ごめんよ、カーネルおじさん。

この後、子供に近づくの怖かったことだろう。

さて、そんなわけで腹ごしらえも終わり、我々はまた出発した。

今度は下り坂になった東海道を下っていくと、茅ケ崎市に入った。

気のせいか、茅ケ崎に入ると木々は青く、空もさわやかに青いようだ。

道は真っ直ぐ西へ進んでいくので、西に傾いた太陽の日を真正面から受けることになって、どうにも暑くてたまらないけれど、とにかくぐんぐんゴロゴロ歩く我々であった。

そのうち、相模川のたもとで「東海道の名物まんじゅう でかまん」と看板をあげるお菓子屋さんをみつけ、お多津は率先して入っていった。

ここのまんじゅう、本当にでかくて、値段は300円から2500円、サイズもそれに比例してでかくなり、700円くらいでもう、ゴンの顔ほどの大きさがある。

旅の思い出に、700円のを一つ買って、店を出た。

そうして、相模川を渡ると、いよいよ平塚。

平塚八幡宮にお参りして、ここまで最長の約13kmを無事に歩き切った我々であった。

(つづく)

本日の歩行時間:約6時間40分

歩行距離:約13km

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